「……ねぇ。もし、世界中の誰も起きてない時間があったら……すごいと思わない？」 「そんな孤独が欲しいのか？」 くだらない冗談のはずだった。 だけど、彼女の声が胸に残って離れない。 言葉ひとつで、こんなにも心が揺れるなんて。 もし、この想いが届くなら―― 今日という日常は、もう昨日までのそれとは違う。

夕暮れの電車で、偶然隣り合わせた男女。 「こんばんは」から始まる何気ない会話は、駄菓子屋の記憶、夏の花火、川辺の蛍へと続いていく。 けれど、ふたりの記憶は少しずつ重ならない。 「……あの店は、5年前に閉店しましたよ。」 静かな違和感が、闇の中に広がっていく。